(続きです。)
武力に頼り、組織的な誘拐、殺人などに関わった人は、多くの人が裁かれないままである。チリの例は、大統領が恩赦を与えてしまったことにより、真相は闇の中のままである。たった20、30年ほど前のことなのに、そして加害者も被害者の家族もまだ生きているのに、真相が解明できないのだ。アルゼンチンでもチリでも未だに家族を探し続けている活動が続いている。
一昨日読んだ本、「Tapestries of Hope, Threads of Love」はそれまで何も社会活動にかかわりがなかった女性達(Iberia文化の影響により南米は特に父権社会だったので女性の役割は家の中に求められていた)は自分達の身の回りの人がいなくなったとき、探し回り、そして絶望の中からarpilleraを作り出した。これは布に歴史を刻んだものである。何もできないと思われていた女性達が、身の回りで起きている納得の出来ないできごとを、布に表現したのである。http://www.case.edu/pubaff/univcomm/chileart.htm 今では明るい内容のものも多いようだが、私の本に出ているarpilleraは見ているだけで悲しくなるものが多い。墓石に刻まれたN.NはNo nameの意味だ。地面に座り込み、うつむいている女性の下には「Donde estan?」と書かれている。これは「彼らはどこにいるの?」の意味だ。実際にいなくなった人たちの洋服を使用したりしているので色彩は鮮やかで一見かわいらしくさえ見えるこれらの作品なのだが、表現されているテーマはとても重い。
これが軍事政権の目を避けて密かに売られ生活の足しになり、同じような境遇の人と悲しみを共有し、集団で作業をすることで慰めにもなった。この活動は国内で密かに広がった。彼らは未だに戻ってこない子供の誕生日を毎年祝い、彼らのために編み物をしている。30年以上彼らが帰ってくるのを待ち続けているのだ。
国内では組織的な弾圧が行われており救いがなかったため、彼女達はこのarpilleraを世界中へ送り出した。国内で起きている軍事政権による人権を無視した行動を、国際社会へ訴えたのである。この活動は次第に世界で広まり、軍事政権も国際社会の監視を無視することはできなくなった。今では組織立ったグループ活動は終わりを向かえたのだが、最初のグループは今でもこの制作活動を続けている。なぜなら真相が全く明らかにされていないからだ。
この本は比較的簡単な英語で書かれているので、そして日本でも売られているようなので、時間がある人にはぜひ読んでいただきたい。私はこの本を機会があれば、将来訳したいと思った。そんなことは思ったのは、初めてだった。
私が平和に生きていたときに、世界の裏側ではこんな悲惨なできごとが繰り返されていたなんて想像もしなかった。そして今でもあちこちの地域でこれだけ世界が注目しているにも関わらず、人権を無視した行為が行われている。私はそういうことを止めるためには何もできないが、知っていて無関心であることは、人として悲しいことだと考えている。「世の中の人、一人でも多くの人へ知らせることが大事である」と言っている教授や活動家の人たちの言葉に従って、一人でも多く周りの人へ伝えていこうと思っている。