絶対話せる!英会話

大事な、大事な自由。

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アメリカに住み始めると、とてつもない貧富の差とクラスがあることに、誰でもすぐに気が付く。そういうのを見るのが、時々とてもイヤになる日がある。彼らの存在がイヤというのではなく、そういう人がこうして生活していかないとならないというアメリカ社会に嫌気を起こすのだ。

いつも通るビバリーセンターの裏から、La Cienegaを横切る道。ここにはHomelessの人などが毎日立っている。いつからかそこに人が立つようになった。時には、信号待ちしている車のガラス窓を拭こうとしている人もいるし(そのサービスに対してお金をもらう)、「Homelessです、助けてください。」 と書かれた小さなダンボール紙を手に持っている人もいる。今日は二人立っていた。二人とも初めて見る人たちだった。一人は白人女性で、もう一人は黒人男性だった。

その黒人男性のダンボール紙には、「Be Happy」と書かれていた。今日はその交差点で私は停まらなかったので、そのまま通り過ぎたが、Be Happyと書かれた紙を見るのは初めてだった。走る車からチラッと見ただけなのだが、彼は姿勢正しく立っていた。何だかそれを見たら、泣きそうになった。

アメリカでは働かなくても、多少の障害があったり、収入がなかったりすると、政府が補助金を出して生活を助けてくれる仕組みがある。(多分日本で言う生活保護と似たようなものだと思うのだが。)そういう仕組みを利用すると、実はそれだけで暮らしていけたりもする。しかも子供の数に応じての手当てもつくので、それが目的のために子供を産む人もいると聞いた。しかし、そういうシステムがあっても、補助を受けられる対象でない人もいるらしい。もし誰でも絶対に生活保護を受けられるのなら、ホームレスの人はいなくなるだろう。

ホームレスの人はMental Disorderになっている人が、一般の人よりも比率的に高い。そうなると、こういう人たちはこの先一体どうやって生きていけるのだろう、と思う。精神を病んでしまったら、通院しない限り症状はよくならないだろう。しかし通えるような病院はアメリカ社会ではそうそうないだろうし、その上、そういう人たちが病院へ行こうという意思を持っているかどうかも怪しい。となると、一旦そうなってしまうと、死ぬまでホームレスの人は毎日物乞いをして生活をしていかないとならないということだろうか。(もちろんシェルターはあるが、それは何の解決にもならない。)

日本のホームレスの人を見ても、実はそれほど心が痛んだことはない。日本の場合は元々生まれた環境のせいでそうなった人は少ないと思われるのと、日本は恥の文化の国なので、自主的に世間から身を隠したかった人もいるような気がするのだ。しかし、アメリカのホームレスの人の場合は、どうもそういう印象は受けない。彼らを見ていると、子供や労働者が搾取されていた時代に100年ほど逆戻りしたような感覚に陥る。

「アメリカは世界一の国なんでしょ、じゃ国がどうにかすればいいじゃない。」と以前は思っていたのだが(何でもかんでもアメリカが世界一というルームメイトと当時は暮らしていたので、アメリカ人のPatriotismに嫌気がさしていた)、最近はこういうホームレスの人や貧乏人を省みないから、アメリカのお金持ちは本当のお金持ちになれるんだな、とつくづくあらためて思っている。前からもちろんそう思ってはいたが、不景気になって、ますますそう感じるようになった。

最近はアメリカでも健康保険を求める市議会などがTVニュースで取り上げられたり、ニュースチャンネルなどでも健康保険について議論などもされているが、アメリカはやはりお金持ちの権利を守る国だということが、そういう討論からもよく分かる。不景気のため、会社が雇用のベネフィットとしての健康保険をキャンセルするケースが最近は多い。健康保険がない人が政府の保険を求めて主張すると(もちろん貧乏過ぎると適用になる州政府の保険はあるのだが)、保守系のラジオのトークショーなどでは、「どうしてお金を持っていて健康保険代を払える人が、お金を持っていなくて保険代を払えない人と同じサービスで我慢しないとならないのか。」と主張する。

初めて聞いたときは冗談を言っているのかと思ったのだが、次々に彼の元へ電話が入り、賛成意見で皆盛り上がっていた。一方、それを聞いていた私は具合が悪くなった。そうか、健康保険がなくて医者にかかることを我慢しなくてはならない人が何十万人もいる現実よりも、お金に余裕のある人がいいサービスを受けられることを守る方が大事、と考えている人がこんなにいるんだということが、私にはショックだった。(実際保険がなくても救急の場合はER、そうでない場合はフリークリニックへ行くことはできるが、診てもらうまでが時間がかかるし、断られる場合も多い。かつて私も断られた経験がある。)しかし、こういう自分の権利だけを守ることが大事という人がこの国にわんさかいる限り、この国に明るい未来はないな、と心の底から思った。

その話を友人にしたところ、「健康保険に関することだけでなく、アメリカというのは元々そういう人たちでできた国なんだよ。」と言われた。更に「アメリカでは理想を言っても通らないし、一般的なサービスを多くの人に提供することを、政府はしたくないし、人もそれを望んでいない。保険を持つかどうかは自分の判断だし、人はそういう自由を奪われたくもない。お金を稼げるかどうかは自分の能力次第、そしてお金を稼げる人がいるから、ここには世界中から人が集まるんだよ。アメリカは他の国とは、元々の土台が違うんだよ。何もなかったところから一から人が作り上げた社会ではなく、アメリカはもっとお金が欲しい人、社会に縛られたくない人が自由を求めてやって来て出来上がった社会で、能力がない人やお金を稼げない人に助け舟を出すような仕組みを求めていない国なんだよ。」と続けられた。

私は何だか、ある意味、とても納得した。そうか、人が医者に診てもらえる権利よりも自分の自由の方が大事な人が集まっている国なのか、と。元々移民にはカルバン主義のプロテスタントが多かったわけだし、お金をもうけることが神に愛されている証拠だったのだから、人を犠牲にしてもお金儲けに必死になるのは、宗教上当然と思う人たちが多かったのかもしれない。ヨーロッパではそういうことを許す環境が整わなかったため、古い宗教には縛られない、古い伝統には縛られない、自由の国を作ろうというのが、この国の土台だったのかもしれない。そして今でもそれが根付いているということか。自分たちの利益を稼ぎ出す自由を奪うものは、人は求めていないということなのだろう。しかしそういう自由を求めている人ばかりではないと私は思うのだが、元々の国の基本がそれだから、と言われてしまえば、もう返す言葉もない。しかし、ああ、そういうことか、とやけに納得してしまった。

もちろんアメリカ人全員がそういう考えに賛成するわけではない。現に私の学校のPublic Healthの教授たちは、そんな考え方には真っ向から立ち向かっていくだろう。ただ、どうして最低限の保障くらいはしてあげられないのだろう、と私は思う。お金に余裕のある人は日本のように個人的に医療保険にでも入ればいいだけの話だと思うのだが。とにかく貧乏人と同じ扱いを受けるのが、この国の余裕のある人はイヤらしい。今回の医療保険の討論を聞いていて(数局のラジオとネットニュースの情報だけだが)、元々の考え方が国民皆保険の国から来た私とはまるっきり違うということが、本当によく分かってきた。

そして道端に立っているホームレスの人に対して、私の見方も大分変わった。私のような外国人からの施しは受けたくないかもしれないが、それでも困っているときはお互い様という言葉もあるよね。「その場しのぎだとしても、それでその人は今日が助かるかもしれないじゃない。それでいいのよ。」と言った友人の言葉を思い出す。私もそう思うことにしよう。

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