のんびりとしながらも毎日少しずつ予定をこなしている。昨日は銀行、歯医者、そして美容院へ行った。歯医者へはここ最近ずっと行かねばと思っていた。1ヶ月ほど前に、のど飴をなめていたら、左下の歯が痛くなったことがあったのだ。我慢できないほどの痛みではなかったが、その後左側の歯を使うことをなるべく止めていた。小さな虫歯だろうと思っていた。
昨日歯医者へ行き、10日ほどで治療を全て終えないとならないことを最初に告げて、歯を診てもらった。すると案の定、虫歯だった。どうも前に詰めていたところから少しずつ虫歯が進行し、神経にまで到達してしまっていたらしい。ということで急遽集中的に歯医者へ通うことになった。
私はアメリカでは学校の保険に入っているのだが、歯の治療は保険ではカバーされないことになっている。そのためアメリカで歯の治療は受けてこなかった。そうしている間に虫歯は進行してしまったようだ。保険がないと病院へ行けないということを身を持って実践し、そして実質的に歯を1本失うことになってしまった。歯そのものは残るが、神経を取らないといけないところまで虫歯が進んでしまっていたのだ。アメリカで保険がない人は恐らくこうやって治療を先延ばしにしてしまい、それが元で病気が進行してしまう人が沢山いるのだろうな、と自分が同じ立場を経験して思った。(私の場合は歯の治療だけだが。)
アメリカにいると健康保険システムをはじめ、世の中の不公平さばかりが目に付くが、今回日本へ帰って来てテレビを見ていると、どうも日本でも同じように保護されている人とそうでない人の差は広がっているようだ。私はいつもサブエコノミーで生きているので、世の中の景気が悪くても良くてもそれほど生活に影響を受けたことはない。会社員だった時期も、派遣で働いていたときも、それほど生活に困ったことはなかったし、それほど極端に給料が安いと感じたこともなかった。しかし今日本で派遣社員が大量に解雇されるニュースばかりを見ていると、日本でも弱者の人は会社が生き残るために、切り捨てられるようになってきているようだ。
私が子供の頃には世の中の8割方の人が、中流意識を持っていたと聞いたが、それは遥かに遠い昔のこととなったようだ。この不景気の中、会社を解雇されたら、働きたくてもどこに働ける職があるというのだろう。しかも解雇された人たちの多くは、私と同世代の人のようだ。日本のように第二のチャンスがない国では、私と同世代の人に新しい仕事があるとは思えない。
NHKで特別番組を見た。オランダの例が出されていた。何でもオランダもかつては社員と派遣社員の待遇の差が大きく不安定な職の人が多かったようだが、首相をはじめ政治家が真剣に取り組み、派遣社員にも社員と同じような待遇を与えないとならないという仕組みを作ったとのこと。そしてかつて派遣社員は希望を全く持てなかったが、今では社員と同じ待遇で仕事を与えられ、そしてなおかつ技術指導もしてもらえるようになったらしい。
日本も同じような道を辿れるのだろうか。私は比較的平等だった古い日本社会の中で育ったので、今後の日本がアメリカのような不平等な社会となってほしくない。誰もが望めば、努力さえすれば、何でも手に入るということは、今のアメリカ社会ではありえないと思う。這い上がっていく人はごく一部であり、大抵の場合は生まれ育った環境で、その後の人生が決められていると思う。私は日本社会がアメリカのようになってほしくはない。成功報酬はインセンティブとしてもちろん大事だが、誰も彼もが同じような才能を持っているわけではないし、人にはそれぞれ向いた仕事があると思う。アメリカのように、お金だけが、教育だけが大事とされる世の中は、いつもどうかと思っている。
一方日本社会にも疑問は多い。日本では一度道をはずれてしまうと、元に戻るのが大変だ。つまりある程度年齢がいくと、または社員として最初から働いていないと、その人たちが適当な収入を得る仕事に就くことは難しい。安心して働ける仕事場がないと、そして会社で仕事を教わる機会がないと、労働者全体の生産性はどんどんと落ちていく一方で、社会全体で見ると、それは大きな損失になる。しかし各企業はそれぞれの業績を守る為に、正規の社員を減らす。長い目で考えると、一人ひとりの生産性が落ちるということは、社会全体にとって決していいことではない。更に給料や待遇の差が広がってしまうと、社会の中で住み分けができてしまう。アメリカのように地域内でしか一定レベルが保てないような社会になると、そのレベルに達しない地域はますます治安が悪化する。それが段々と周りに広がり、結果として安全な場所が減ってくる。私はアメリカのように子供が1人で安全に過ごすこともできない社会に、日本にはなってほしくない。
そのため、やはり安定した雇用制度は必要だろうと思っている。そして、ある程度年齢がいった人でも新しい仕事を始められるように、年功序列、年齢による差別などをなくすべきだと思う。年齢ではなく能力を基にして、そして年下の上司の下でも働いても全く構わないという人たちが増えないと、なかなか会社の組織は変わっていかないだろう。自分に自信がない人、その組織でしか働けない人が多いから、新しい人を受け入れることに抵抗が根強いのだと思う。年齢ではなく、能力で人がはじき出されるのはある程度は仕方がない。能力による差別なら自己責任で仕方がないが、年齢による差別、性別による差別、スタート地点が違ってしまったための差別は、なくなっていってほしい。一度はずれてしまうと元に戻るのが難しい日本社会。こういう社会が変わっていかない限り、希望を持てない人が益々増え、日本の全体的な生産性は上がらないだろうと思う。一生不安定な日雇いで生きていく人が増えてしまったとしたら、出生率も更に下がるだろうし、結果として国の働く人口が減っていく。
久しぶりに日本へ帰ってきてみると、私がアメリカで見た嫌なところばかりが、日本でも起こっているような印象を受ける。差別をなくそうというアメリカのいいところは見習っていない。(もちろん実際は差別があるから、法律が必要とされているわけだが。)いつから日本は安心して働ける社会でなくなってしまったのだろう。