今日のセミナー授業は、教授がタイへ出張だったため、ゲストスピーカーがやって来た。何でも彼女はネゴシエーションのプロのようだ。大学を卒業後、Civil Servantとして働き、その後国連へアメリカ代表として派遣されていたそうだ。派遣されたときはとても若かったので、いろいろといい経験をしたと言っていた。しかし今でも十分若い女性で、恐らく私とそれほど変わらない年齢なのではないかと思われる。しかし経験が豊富なのだろう。授業は分かりやすくて説明がとてもクリアだった。
今日のために読まされた本は、Getting to Yes。ハーバードから出されている交渉するための本である。(実はまだ読み始めたばかり。)Positionではなく、交渉するInterestsを自分と相手の立場から考えよう、などなど説明された後、授業はロールプレイングになった。二つの対立する国のケーススタディと地図がそれぞれ二つのグループに渡され、相手方の細かい国内事情はお互いに隠されたまま交渉が始まった。二人ずつのグループに分けられ、準備時間に20分、交渉時間も50分も与えられた。が、話し合っていると、50分なんて、あっという間である。
このケースは、この教授がこの学校のLaw School用に作ったものらしい。そうか、Law Schoolではこういう練習をしているのか。どうりで設定がとても細かかった。が、相手側に自分の不利な点と有利な点を全て見せる必要はない。自分の国の事情は隠しながら、それでもお互いにとってwin-win situationを作り出すのだ。この話し合い、最初はどうなることかと思ったのだが、終えてみたらとてもおもしろかった。またやりたいくらいだ。
教授はNegotiationやMediationの授業は、機会があれば絶対に取っておいた方がいいと言っていた。確かに感情的になったり、交渉に不慣れで一方的に言いくるめられてしまうかもしれないことを考えると、普段から交渉するということに慣れておいた方がいいだろう。そうでなくても日本人は、アメリカ人と比較すると、交渉能力は絶対的に劣っているのは間違いがない。議論もそう。日本人はあまり人の意見を否定したりしないし、先に広まっている考えがあると、それに敢えてチャレンジする人は少ないと思われる。しかしアメリカではそれは当たり前に行われていること。
ふと急に思ったのだが、日本の政治家にはこういう力が絶対的に欠けているのではないだろうか。だから外交面で国際社会に訴えたり、日本独自の立場を見せることができないのかもしれない。そして外国と交渉するのなら、やはり英語も必要だろう。実際に英語で交渉するということはないとしても、まず交渉するお互いの人となりを知っておくために、多少の会話くらいできないとまずいだだろう。国を代表しての交渉とは言え、人と人が話し合うのだ。まるっきり会話ができない相手として受け止められてしまうと、それだけで交渉する相手方の態度も変わってくるだろう。これからの政治家には、外国で数年過した経験(日本の外から日本を客観的に見る力を養うため)と交渉力、英語力がないとなれないという条件をつけたらどうだろう?
日本を出てから思うことは、何で日本の外交は独自の路線がないのだろう?ということ。個人レベルで活躍している日本人はたくさん見かけるが、どうも日本という存在感が国際社会で全く見えてこない気がするのだ。日本にいるときに、「日本はお金は出すけれども、それ以外の対応は何も国際社会にしていない」という外国の記事をいくつも読んだことがあるが、日本の外から日本を見ると、日本が外国に与えている印象は、本当にそのとおりだと思う。政治家がもし日本国内で交渉下手な日本人相手にしか交渉の経験がないとしたら、外国と交渉する際、win-win situationを作り出すというのはかなり難しいのではないだろうか。
ま、そういう私自身も日本にいたときには、交渉ごとはあまりしたことがなかった。アメリカに来て、何事も交渉しないと物事が進まないシステムの中で、あれこれ試行錯誤しながら話し合う技術を少し身に付けたのだと思う。(しかし英語はかなり下手なままだが。)
さて今日の授業では1組だけ全く何の同意に達しなかったチームがいたが、後のチームはどうにかお互いにとっていい結果となったようだ。しかしお互いの国の情報は、お互いに隠したままの人が多く、終わった後に知った新事実に驚く人もいた。(私も自分の国に新しいミネラルが発見されていた事実は、自国の利益を守るために相手側に伝えなかった。)実際の国同士の交渉だったら、こういう隠し事もたくさんありそうだ。
教授の授業の締めくくりは、「これが実際に国際社会だとしたら、どう思う?たった二つの国でもこれだけの利害が絡むのに、これが国連総会のように192カ国もいたら、どうやってまとめられる?だから交渉は難しいのよ。でも対立するだけでは何も生み出さないから、やはり話し合わないとダメなのよ。そしてお互いに、自分だけでなく相手の利害も理解しながら、少しでも win-win situationを作り出していかないとならないの。だから交渉は大事なのよ。」だった。
いやー、確かに。全部の国と話し合うなんて、想像しただけでも頭の中がゴチャゴチャになりそうだ。しかし実際に国連の会議(国連総会でない小さな会議)では、多くの国がそれぞれの立場を主張してはいるものの、最終的には交渉に交渉を重ねていろいろなことが決められているそうだ。そして教授はそういうことを沢山経験してきたらしい。私には絶対にムリ。しかし教授の言うとおり、私も機会があったら、ぜひ交渉方法を学ぶ授業を取ってみようと思った。アメリカにいる限り、そういう能力は絶対に必要だと思われる。
おもしろい授業だった。