二週間の日本での休暇もすっかり過去のものとなり、アメリカでの日常生活に戻った私。日本はやはりお買い物と食べ物は天国のよう。チップなんて置かなくても素晴らしいサービスが受けられる。実に楽しい日々だった。しかし実は今回、日本ではあり得ないような怪我をしてしまい、未だに後遺症に困っているのだった。
それは日本で最初の土曜日(暑い一日だった)に起きた。暑さとビールが原因と思われる脱水症状で気を失い、上の前歯2本で下唇の少し下の部分を内側から外側に貫通する傷を作ってしまった。そして1ヶ月近く経った今でも下唇の感覚が元に戻らない。毎朝起きた直後は、下唇があごから引っ張られるような感じで、筋肉が硬直している。そのため最近は、あごの筋肉ほぐしをすることから一日が始まる。
筋肉層も断絶してしまったとのことなので、唇もいまひとつよく動いているのだか動いていないのだかが分からない。日本語を話していたときは全く気にならなかったのだが、アメリカに帰ってきて初めて気がついた。Wの発音がしづらい。つまり唇をとんがらせるときにかなり意識しないと、その唇の形にならないのだった。初めはPも発音しづらかったが、最近は直ってきた。英語って唇をやたらと動かす言葉だったのね、とあらためて気づく私。不自由になってみて初めてわかった。
更に困っていることは、下唇の感覚がぼやっとしているので、食べ物をこぼしがち。(将来老人になったら、物をボロボロこぼす人になってしまう可能性大。)そして感覚が鈍いため、その部分でこぼしていても気づかない。
しかもその上、温度への感覚も鈍くなった。なので料理中、味見をするときに下唇だとそれほど熱さを感じないため“熱くない”と思ったものが、予想外に熱すぎて舌をやけどするということも、最初の頃は頻繁に起きた。この感覚の鈍さは、昔手術したときにその傷口の周りの感覚が鈍くなったのとまるで同じ。ということはひょっとしたら10年経っても完全には治らないかもしれない。
傷は縫ったので大きいといえば大きいのだが、唇のラインとほぼ重なっているため、あまり目立たない。ま、これだけが不幸中の幸い(と言うべきか。)
あとは前歯。1本は未だに感覚がおかしい。今は普通に物も噛みきれるようになったが、最初の1週間は物を全く噛めない状態だった。前歯って物を食べるときには本当に必要な歯だったのね、ということも今回初めて気がついた。日本では歯医者さんに「1ヶ月くらいしたら検査に行ってください。」と言われたので、そろそろ行った方がいい頃かもしれない。
アメリカに来てから初めてお金に多少の余裕があって帰ることができた日本への一時帰国。6年ぶりの真夏。そして裂けた唇。いろいろな意味で忘れられない夏の思い出ができた。